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私掠行為規範(3/3)

寝苦しい、夜だった――

本文

 寝苦しい、夜だった。
 海と山は近いので、波の音が耳から離れない。
 寝床の上につるした、虫よけの網には穴が開いているので、クナリはあちこちを蚊に刺されて、とても熟睡する事は出来なかった。
 先程まで聞こえていた、母親の寝息が聞こえなくなっていた。
 グナワンは今夜も戻っていない。
 よく働く少年だった。たまにふらりと帰っては、泥のように眠り、また家を出てゆく、その間に、クナリと組手の稽古もこなした。
 グナワンの上達は目覚ましく、今ではクナリに膝をつかせることもある。
 グナワンはとても喜んでいたが、クナリはその上達を、悲しい、と感じた。
 気がつくと、寝間着の母親が、すぐそばに立っていた。
 薄目で確認しただけだ。表情までは分からない。
 胸の前で月明かりに光っているのは、料理に使うナイフだろう。
 反射する光は、ひどく震えていた。
「あなたがいけないのです。あの子を連れて行かれたら……わたしにはなにも、なにも残らない」
 かすれた声が聞こえた。
 わざと、眠っている振りをしていた。
 長い間、母親は立っていたのだが、やがて長い息を吐き、自分の寝床に戻っていった。
 それで、クナリは確信した。
 グナワンが、小柄な男だ。朧鬼の統率者なのだ。
 この村での、クナリの仕事は終わった。
 やり遂げたというような感慨はなにもない。ただ泥の中を歩いた後のように、ひどく疲れただけだ。
 誰にとっても分け隔てなく、世界は残酷に出来ている。もし、この村に金が産出し、どの村よりも豊かになったとしても、同じことだ。今度は今まで知らなかった争いが起こり、誰かが、同じように涙を流す。
 だからこそ、世界は尊いと言える。母親が息子に注ぐ愛情が尊いと言えるし、哀れな境遇の少女を庇う村人が、得がたい物だと言うことができる。
 クナリにはすでに心に決めた事があった。
 それは、母親にとっても、少女にとっても、おそらく胸が裂けるような出来事だろう。
 それを思うと、クナリはこのまま、スガルバヤに帰ってしまいたいような気分に襲われた。
 どうしてだか、出かける前、アネビヤの相手をしてやらなかった事を後悔した。


 目を覚ました時、家の中に家人の姿はなかった。
 外が騒がしい。村人達がなにか騒いでいる。
 急いで起き上がると、足が鶏を蹴飛ばしてしまった。
 クナリは、鶏に蹴られながら服を着て、家を出た。騒ぎは井戸がある村の中心の方だった。


 村人達は、井戸の前に立つクスハを見て、驚いていた。
――父親を呼べ! グナワン達にも連絡しろ!
 と、誰かが大声を出した。
「父は呼ばないで、グナワンも呼んでは駄目」
 クスハは言った。今から起こる事を、父に見せつけるのは残酷に過ぎる。
 グナワンには見られたくない。
――クスハ、馬鹿なことを。もう少しで、あの男達は諦めたのに。
――今からでも遅くない、逃げなさい。後はわたし達がなんとかする。
 そう言ってくれる人達がいた。
「あたし、逃げない。もう、いいの。もう大丈夫だから」
 人を売買する連中が、例外を認めるとは思わない。甘く見られれば、商売が立ち行かなくなるからだ。諦めたりする筈がない。
 鼻を垂らした男の子。カザマヤの息子のキニは、大きな口を開けて泣いていた。
 村は風をよけるねじれた木で囲まれているので、遠目は効かないようになっている。
 まだ、少年達には誰にも見られていない。このまま早く終わったほうがいいのだ。
 服を着ながら、駆けてくる男の人がいた。
 身なりは良いのだが、無精ひげがそれを台無しにしている。不潔というほどでもないが、清潔感からは、ほど遠い。
 いい人だと、グナワンは言っていた。確かに、騙されやすそうな顔をしていた。
「あなたが、グナワンを連れて行く人なの?」
 無精ひげの男の人は、クスハの少し手前で止まって、苦しむような顔をしていた。
 おかしな人だ。
 ぜんぶこの人の思い通りになったのに。
 大人しくついて来れば、クスハに手を出さないと言えば、グナワンはそうするだろう。
 それをクスハが聞けば、クスハはグナワンを守るために、自分の身を差し出す。
 たぶん、この人には分かっていたことだ。
 どうして、辛い顔をする必要があるんだろう。
「きみが、クスハだね」
「そうよ。さあ、連れていって。これで、丸くおさまるんでしょ」


 それほど、美しい少女だとは思わなかった。鼻の周りにはそばかすがあるし、まだ乳房が膨らんでいる訳でもなく、髪は不揃いに、短く切られているだけだ。
 それでも、この娘が最上級の商品であることは、すぐに、クナリにも理解できた。
 それは凛とした立ち姿や、強い意思を示すまなざしに、なによりも愛する人たちの為に、自分の身を顧みず、なすべきことをするその行為に、明確に表れていた。
 自分の物にしたい、とそう思わせる何かが、この少女にはある。
 それが、この娘に高値がつく理由なのだろう。
 この娘を連れて帰れば、略奪はなかったことになる。
 話は振り出しに戻って終わりだ。
 だが……、
 考えているクナリの肩を掴んで、押しのける者があった。
 やって来たのは分かっていたが、わざと知らぬふりをしていたのだ。
 傭兵は、クナリの体を押しのけて、傍若無人に歩み寄ると、乱暴にクスハの手首を掴みあげた。
「いたい……」
 傭兵は構わずに、クナリに向き直って言った。
「いい仕事をするな、あんた。まさかこんなに早く見つけるとは思っていなかった」
 傭兵は、馴れ馴れしく言った。首に大きな傷がある男だった。長い髪を布でくるんでいる。女にもてそうな風貌だ。
 クナリは見当違いな嫉妬を感じた。
 こいつ、いつもいい思いをしているに違いない。
「あんた、義理の両親とやらが雇った男達かい?」
 クナリの声に、色男は愉快気に頷いた。
「もう、話は分かっているだろう。あの人達の商売は、なめられたらやっていけんのだ。べつに俺も恨みはないが、これは仕事だ。けじめをつけろと金を渡されたら、そうするしかない。あんたもそうだろう?」
 村人に知らせを受けたグナワンが、人垣をかき分け、男に掴みかかった。
「クスハを放せ!」
「やめて、グナワン! もういいの!」
 色男は、いとも簡単に、グナワンの体の裏側に踏み込んで、剣の柄で脇腹をえぐった。グナワンは悶絶して、鶏の糞の上に転がった。しばらく息ができないに違いない。
「やめて! 乱暴しないで!」
 色男は、暴れるクスハを抱いたまま、つま先を器用に使ってグナワンの腕を拾い、重ね合せて背中に踏んだ。グナワンは自分では動けなくなった。
 村人が、気色ばむのが分かった。残りの傭兵たちが、色男を守るように立ち、剣を抜いた。
「勘違いするなよ。俺も乱暴は嫌いだ。誰にも、なにもしない。殴らないし、殺さない。ただ、この娘を連れていくだけだ」
 色男は、余裕の笑みを浮かべ、村人を見渡した。所詮、素人の集まりだ。いざという時には、切り抜けて逃れることなど造作ない、と踏んでいるのだ。
「あんたが連れて来たのか!」
 グナワンは、男の足の下でクナリを見上げて叫んだ。
「あんたは、分かってくれると思ったのに! どうしてだよ!」
 クナリは、組んで眺めていた腕をおろし、ため息をついた。
「じつは、おれは腕っぷしの方は、からっきしなんだ。組手はな、人殺しとは違う。組手に度胸はいらないだろ。三人もいたら無理だ」
「ええ?」
 グナワンは、男の足の下で、調子はずれな声を上げた。
「ええ?」
「その娘は渡してしまえ。おまえ、殺されるぞ」
「そんな!」
「それほど、値打ちのある娘にも見えない。おまえなら、もっといいのを見つけられるよ」
「あんたも!」
 グナワンは、血を絞るように絶叫した。
「あんたも女を値段で計るような男なのか! あんたにクスハの何がわかる! クスハは泣かなかった! 誰も責めなかった! 誰も呪わなかった! あんたにそれができるのかよ!」
 クナリは、冷たく言い放った。
「死ぬぞ、いいのか?」
 グナワンは笑った。
「クスハは渡さない。死んでもだ」
 それで、クナリは心を決めた。おそらく、グナワンを止める事はできない。縛り上げても駄目だ。自由になると同時に、港まで走り、傭兵たちに挑みかかるだろう。
 船で逃げても駄目だ。
 どこまでも追いかけて、やがて、しびれを切らした男達に殺される。
 そういう種類の、馬鹿な男だ。
「なるほどな……グナワン、ひとつ、おれに約束をしろ」
「なんだよ。あんた約束守らないだろ」
「いいから、誓え。おまえは俺について来るんだ。村を出て、おれとスガルバヤに行く」
 色男が、片眉をあげて、クナリを睨んだ。
「おい、妙な気を起こすなよ。私掠規範に従わないのであれば、マティラ家に報告させてもらう。規範には抗えぬ筈だ」
「私掠とは、暴力を用い、営利目的で人の所有物を奪う事を言う……なんだか、あんた達の方が海賊のように思えてきたんだがなぁ。このまま、帰ってはくれないか?」
 色男の目が、暗い光を帯びた。普段から命のやり取りをしている男だ。凄めば、クナリなど、視線だけで殺してしまいそうだ。
「おまえ、なめるなよ」
 クナリは、凄む色男を無視して、グナワンに言った。
「おれが、捜していたのは、おまえのような男だ。けっして金に転ばず、なにがあっても暴力に折れる事のない男だ。たいていは早死にするので、あまり見かけない。どうだ、一緒に来れるか?」
「あんた、頭、おかしいんじゃないのか?」
「よく、言われる」
 グナワンは、泥と糞に汚れた顔を上げ、クナリを見た。
「行くといったら、どうなるんだ。おっさん」
「約束してくれたら、この人達には帰ってもらうよ」
「貴様!」
 色男が吠えた。
 クナリが考えていたのは、やはり、アネビヤの事だった。
――怒るだろうなぁ。
 アネビヤに怒りに比べれば、男の咆哮など、それほどたいした物だとはとも思わなかった。


 港といっても粗末な桟橋で、小さな漁船がいくつか繋がれているだけだった。ちゃんとした船は、早くから漁に出ている。残っているのは、沖には出られない、子供が使うような船だけだ。
 船から村を見上げたが、風よけに植えられた木のせいで、村の様子は分からなかった。村からは、薄い煙がいくつか立ち上っているだけだ。ちょうど、朝食に使った火が燃え尽きる頃なのだろう。
 母は。見送りには来なかった。
――少しの間、奉公に出るだけ。そんな、大げさな事ではないでしょう。
 と、母は言った。そう言ってはいたが、母の後姿は震えていた。
 桟橋で見送るクスハは泣いていた。
「まってるから! あたし、グナワンをまってる」
 クスハは、海に飛び込んで追いかけてきそうに見えた。グナワンは、綱を足に巻きつけて、自由にした手を振った。
「いい子だな。値打ちがないなんて言って悪かった。もう食ったのか?」
「下品だよ、おっさん。クスハはまだ子供なんだ」
 クナリは、はは、と笑った。少年のような笑い声だった。
「ここにも意気地なしがいた」
「なんだよ、おっさん!」
「子供だと思っているのはお前だけだ。うかうかしていると、手の早い奴に、じき大人にされてしまうぞ」
「だまれよ、このおやじ」
 あの後、クナリは男達を三人とも片付けた。
 剣を持った男達に、どうしてあのような事ができるのか、グナワンには、まったく分からない。
 そもそも、男達は剣を振り下ろすことが出来なかった。
 どのような呼吸なのだろうか、散歩をするように歩き、クナリは振り下ろす前の剣を止めて見せた。そのまま腕を取ると、男達は独楽のように回されて、背中から地面に落ちた。
 奪った剣を、クナリは素手でへし折った。
 それを三かい繰り返すと、傭兵たちはもう、戦意を喪失していた。
――まだ、やるかい。
 と言ったクナリに、傭兵は答えた。
――いや、これでも本職なんでね、矜持がないわけでもない。怪我をしないように気を使われては、闘うことなどできないよ。
 クナリは、感心したように言った。
――あんた、もてるだろうなぁ。
 どこか、焦点がずれているのは確かだ。クナリは得体のしれない男だった。
「なんなんだよ、あんた。気味が悪い。おれに何をさせる気なんだよ」
 手を振るクスハの姿は、島の陰に隠れて見えなくなった。
「そうだなぁ、昨日みたいな事を手伝ってもらう」
「人助けかい?」
「違うよ、そんな柄じゃない。あえて言えば……修理かな? 世の中のうまくいってないことを、少しだけ直してまわる。ついでに、うまい食べ物と、かわいい女の子もいただく」
「クスハは駄目だぞ」
「なんで? それはあの子の勝手だろ。おまえの都合なんか知るか」
 グナワンは目を細めて見せた。海の上では船長が絶対なのだ。
「おっさん、少し泳いでみる?」
「冗談だ。いくらなんでもおれには若すぎる」
「おっさんは冗談ばかりだ。真面目になることはないのかい?」
「なにしろ……中身のない男だからなぁ……」
 そう呟くクナリの横顔は、年相応に疲れて見えて、少しだけ、寂しげに見えた。
 剣を持った男達を物ともしない腕前を持ち、金持ちで、帰る家があっても、この男は、きっと孤独なのだ。その気持ちはグナワンにも分かるような気がした。
 後ろめたいような気持ちは、グナワンにも、いつも、つきまとっている。クスハといても、母の手料理を食べても、我に返れば、その気持ちは、確かにそこにある事がわかる。
 きっとこの気持ちは、世の中に涙を流す人がいる限り、無くなったりはしないのだ。
 クナリは、生まれついての罪人のような人なのだろう。
「おっさん、頑張るよ。なんだかわからないけど、ちゃんとやるようにする」
 それを聞くと、クナリは父親がするように、くしゃくしゃっとグナワンの髪をかき回した。
「ちゃんとしなくていいんだ」
 クナリは、夢から醒めたような顔で笑った。
「おまえの場合は、するべきだと思ったことを、するだけでいいんだよ」


 今日もアネビヤの執務室は暗かった。
 机で値踏みしているのは、陶器の箱だった。香を納めたり、宝飾品を納めたりする為の浅い器だ。乳白色の半透明な表面は、まるで宝石を磨いて作ったような質感だった。
 アネビヤは陶器の肌を、細い指でなぞった。
 自分の背中を撫でられたような気がして、クナリは、ぞくぞくとする快感に、体を強張らせた。
「あきれました。規範に従わせなさいといった筈です。規範破りに加担し、首謀者を弟子にして帰ってくるなんて、あなたは、どこまで常識を知らない人なのですか」
 半分、背中を向けているので、アネビヤの表情は分からなかった。身に着けているのは、斜めにかける薄い布のドレスだ。淡い緑の生地が、芽吹いた木の芽のように初々しい色合いだった。片方の肩は露出していて、布はかろうじて乳房にかかっているといった感じだ。
 娘がこんな格好で外を歩いていたら、父親は怒って部屋に閉じ込めてしまうだろう。
「でも、アネビヤ。きみは、おれがこうするって知っていたよね?」
 振り返ったアネビヤは、くすくすと笑っていた。
「もちろん。あなたは女の子の願いを断ったことなどない男ですからね。わたしの時もそうでした」
 出会った時のアネビヤは、片意地をはって、身構えているようで、あまり笑わない人だった。追求はしなかったが、男にひどい目にあわされた事があるようで、傷ついた様子は、大半が枯れてしまっても、残った蕾を凛と咲かせている花のようだった。
 あれから、ずいぶんと変わった。子供を産んでからは、よく笑うようになったし、子供の相手をするアネビヤは、港の大半を支配する商家の主とはとても思えぬほどで、少女に返ったようだった。
 もし、クナリがその手助けを出来たのだとしたら……。
 それだけで、自分にも生まれてきた理由があったのだと、安心することが出来る。クナリはいつでも、アネビヤに救ってもらっているのだ。
「あの怪しい夫婦の事なら、とうに調べはついていたのですよ。貿易商の実態は、大規模な人身売買組織でした。あなたが囮になってくれている間に、人を集め、一網打尽にしました」
「……なに?」
「ほんとうによい仕事をしてくれました」
「夫を、囮にしたのかい? きみは相変らずだ。ひどい話じゃないか?」
「あなたこそ、ひどいではありませんか。戻ったら、どうして真っ直ぐわたしの所へ来ないのです。隠れるようにあの子だけを寄越して、二日も待たせるなんて」
「だって、まだ怒っているかと思って……」
「ぶつくさ言うのはやめて、こちらにいらして。ご褒美をあげます」
 アネビヤは、クナリに指を差し出した。
「もう、人払いはしてあるのですよ」
 クナリはアネビヤの手を取った。
 この人には、かなわない。
 この人が、おれに笑ったり、怒ったりすることを教えてくれる。この人がいなければ、おれは空っぽで、何もないのだ。
 この人が、おれを人間にしてくれるのだ。
 クナリはアネビヤの体を抱き寄せて、胸に顔を埋めた。
「まあ、子供みたいに」
 アネビヤは言った。


 屋敷の裏手は、広場になっている。
 穀物や牛などの、大げさな商品を集める時に、使用する広場だ。広場は石を敷き詰めてから牛に踏ませているので、地面は灰色のタイルのようになっていた。
 グナワンは、クナリに教わった型を、飽きずに何度も繰り返していた。
 屋敷の壁にはブーゲンビリアがまとわりついていて、淡い紫の花を咲かせている。葉の緑と混じりあうようにして咲き乱れる様は、まるで、花の色の滝のように見える。葉と花びらが流れ落ちる滝だ。
 結局、グナワンが言いつけられた償いは、マティラ家への五年間の奉公だった。
 スクハには悪いけど、あんなに綺麗で優しそうな主人なら、五年間の奉公くらいなんでもない。
 よい服を着せてもらい、教師までつけてもらった。スクハと母に服を送りたいと言うと、アネビヤは自分で、グナワンが選んだ服を送る手配をしてくれた。
 でも、あの男……
 先程、姿が見えない師匠を捜していると、師匠は主人のアネビヤを、執務室で泣かしていた。
 あの、清楚な人に、あんな声を出させるなんて、しかもあんな場所で。
 グナワンの師匠には、人並みに夜を待つだけの辛抱もないのだ。
 ほんとうに、子供のような男だ。
 無心になろうとして型を繰り返すと、汗の玉が飛び散って、服が汗で張り付いた。
 もやもやが、頭を離れないのだ。
 胸が苦しくなるような気分で、スクハのことを考えると、もやもやはもっと酷くなって、グナワンはいっそう強く、拳を突出し、足を踏み込んだ。
――くそ、あのおっさん! あとでたっぷり小言をくれてやらねば。
 繰り出したグナワンの拳の上に、ブーゲンビリアの花びらが舞い落ちた。

      終

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