HOME| 【APOPTOSIS】| (1/12)(3/12)(5/12)(7/12)(9/12)(11/12)

【APOPTOSIS】(2/12)R15注意

まず、世界には偏りがあった―

本文

【戻る】HOME【次へ】

 まず、世界には偏りがあった。
 資源は限られた場所にしか存在せず。人の住める場所も限られていた。
 人は言葉と法とコミュニティにどうしようもないほどに引き裂かれていた。
 世界は、エントロピーの法則に従って平衡化に向かう。
 経済活動は、平衡化を効率よく進めるエンジンだ。
 無秩序から秩序を精製する生命が、無秩序を効率よく推し進める。いずれ世界はフラットになる。ぼくのイメージは、延々と続くなにもない白い砂漠のような情景だ。じっさいには、その時の人間の生活はどうなっているのだろうか?
 その姿が日本にあると、世界の人は言う。
 世界で一番最初に、楽園へたどり着いた都市。世界は熱的死の向こう側に、楽園があるとささやいた。

 楽園への道のりを築いたのは、省力化と合理的生産だ。物をつくるコストは極限まで下がった。再循環の概念は、社会に必要な資源やエネルギーすら最小化した。今の日本は、アメリカが映像プレーヤーを一台つくる投入エネルギーで、大型建設機械を一台作ることができる。
 もちろんデフレ、あしたもデフレ、あさってもデフレだ。デフレーションは通貨の価値に対して、物の価値が下がってゆく現象だ。今日百円のパンが来年、半分の値段で買えたとする。五年続くとパンは三円になっている。そこまで極端じゃないけれど、もうお金なんかあんまり意味がない。いまでもお金を使っているが、量の大小は問題じゃないのだ。つまり、人間の物質的欲望を満たすという意味においては。
 欲しいのがパンであれば、千円持っていようが百万円持っていようが、関係ない。百円で十分だから。
 その状態で、為替レートが変わらなければ、海外からの略奪が起きる。日本で買って、自国で売れば、それだけで馬鹿みたいに儲かるのだ。でも、もちろんそうはならない。円の価値は跳ね上がり、物の価値が釣りあう所で平衡した。
 農作物を工業化することにより、食糧自給率もあがり、積極的に貿易をする必要はなくなった。
 日本は必要な技術ユニットについてのみ、価値の高い円を使って買い入れ、対価として望まれるものを要求されるだけ支払った。安価で高性能な電気製品、建設機械、文化的なコンテンツ、アニメとか映画、音楽、その他、もろもろ。どちらにしても国内ではそれほどの価値を生まない商品だ。
 べつに日本は世界経済をけん引するリーダーじゃない。どちらかというと日本は海外の動向に無関心だ。
 だから皮肉を込めて海外のエコノミストは、日本をめぐる貿易をこう名付けた。
 『朝貢貿易経済』
 いま、日本人が欲しがるのは金じゃなくて、『尊敬』だ。尊敬、共感、尊重。金では手に入らない物を、日本人は欲しがる。あさましく欲しがることに変わりはない。『尊敬』を欲しがる? どうかしてるとぼくも思う。欲しがったら尊敬をくれるかな? 軽蔑ならくれるかもしれない。でも現実はそうだ。方法があるのだ。
 ひたすら演じればいい。善意にあふれた自分を、優しい自分を、思いやりに満ちた自分を。そうして多くの人に見せかけの善意をばらまけば、数値としての尊敬は得られる。それを今の日本ではフォロワーという通貨で計る。
 あなたのことをちゃんと見ていますよ、という指標だ。だから、善意社会にはソーシャルネットワークサービスがかかせない。
 もちろん、本当に善意にあふれた人たちもいる。
 マズローの自己実現理論で言えば、第五段階に達した人々だ。
 現実を深く理解し、他者に対して寛容で、創造性に富み、謙虚で、聡明で、かたよらない物の見方ができる人々。
 そんなのいるわけないじゃない。スーパーマン? ガンジーですか? ぼくもそう思う。
 でも、世界は広い。
 たとえば、ぼくの目の前で、背筋を伸ばして肘掛椅子に座っている、この美しい女性が第五段階だ。
 年は記録では、三十二才。西宮はるか。
 首筋にかかるくらいの黒髪が、ほほをかすめて自然に広がっている。
 ほほやあごのしっかりしたラインが芯の強そうな印象を作っているが、弓なりの愛嬌のある眉がその印象を和らげていた。微笑みを絶やさないので、えくぼが唇のはしに常駐している。飾り気がない横長の黒縁眼鏡をかけて、薄桃色のセーターの上に白衣を引っかけていた。これは職業上の演出だろう。彼女は心療カウンセラーなのだ。
 女性にしては背が高い。身長は成人男性平均のぼくくらいはある。ぼくはリクライニングしているので、彼女の視線はぼくより上の位置にある。西宮はるかの背後にある鏡に、自分の姿が映っていた。五枚セットで売ってる綿のTシャツに、擦り切れたジーンズ。硬いウールのジャケット。女の子みたいな細い体。ぼさぼさの軽くクセのある髪。顔は……傷ついている? わからない。怒っているような顔だ。べつに怒ってはいないのにね。
 ぼくは同僚のひどい自殺現場を目撃し、彼女、西宮はるかのカウンセリングを受けている。
 カウンセリングを受ける事は、多次元機動捜査オペレーターの義務なので、ぼくは以前から西宮はるかを知っている。費用は研究室持ちだ。
 彼女のオフィスは、たぶん、自宅の一室をあてたものだ。市から無料で貸し出ししてくれる記録端末(ログボット)を部屋のすみに立たせているのは、興奮した相談者から、危害をくわえられそうになることもあるからだと思う。善意社会でも危険がないわけじゃないのだ。
 相談者が落ち着くように、緑を多く置き、柔らかな音楽が流れている。アコースティックギターとピアノの控えめな調べ。ぼくの場合は逆におちつかない。
 椅子だかベッドだかわからないクッションに沈み込んでいると、西宮はるかは少しかすれた感じのやわらかく響く声で言った。
「木山さん。なにか、かわったことはありますか? 罪悪感とか、夢をみるとか、そういったことですが」
 ありますよそりゃ、ぼくが間に合わなくて、人が死んだんです。ぼくのせいではないかもしれないけれど。
「ありますね、罪悪感。どうしてだろう?」
 捜査官は、自我座標固定の訓練を受けている。簡単なことだ。わたしは関係ない。その一言で身を守ることが出来る。
 ぼくの同僚、惣領かえでは、自分に罰を与えるようにして、右手をフードプロセッサーに突っ込み、その後、左手に同じことをした。その時点で直径六ミリのステンレススチール駆動軸は根をあげ、ベアリングの機能保持に必要な精度を失って、モーターは過負荷により焼損している。
 それで惣領かえでは、それ以上自分を罰することは諦め、あらかじめ座りのよいタンブラーで床に立てたあったキッチンナイフの上に、胸から飛び込んで終わりにした。
 でも、関係ない。
 後催眠で記憶を消すこともできる。捜査官に与えられたまっとうな権利だ。なにしろ日本の人口は減り続け、今では六百万人しかいないので、日本人の命はとても貴重なのだ。大事に使って死なせないようにしないといけない。でも、後催眠は副作用があって、ある日、どうにも説明のつかない悲しみと罪悪感を抱えた自分が出現することになる。どんなに考えても理由がわからないのだ。ぼくの感覚としては、あまりぞっとしない。
 じつは、後催眠が捜査官の自殺率によい結果をもたらすという、統計的な結果は得られてない。
「人が死ぬと、残された人は罪悪感を感じるんです。心の機能ですよ。子犬をかわいいと感じるように、人が死ぬと自分に責任があるように感じます。その人をよく知っていたのですか?」
「同僚だからね」
 自殺した惣領かえでは、二つくらい年下の後輩だ。短髪の少年っぽい外見。たまにシフトが重なった時の彼女は、ラボでもかまわずにジーンズとTシャツだった。この職業では異例な事として、どちらかといえば明るく、笑顔の印象しか記憶にはない。
「あなたも、知っていた。クライエントなんだから」
 当然だ。惣領かえでもオペレーターだったのだからカウンセリングを受けている。
「そうですね。責任を感じないといけないのは、わたしのほうかもしれません」
 うわ、しまった。失言だ。
「惣領かえでが悩んでいた理由は、知っているの?」
 西宮はるかは、ぼくの目を見た。まじまじと。瞳にぼくの顔が映っている。へんに悲しげな顔だった。なにか物言いたげにしていたけれど、結局、最後は職業的に微笑んだだけだった。
 ゆっくりと首を振った。まっすぐな黒髪が揺れた。
「じつはわたしにも分からないんです。彼女には死ななければいけない理由なんてなかった。もし知っていても、職業倫理として、教えることができません。申し訳ありませんが」
「どうして、と思う。わからない。年が近いし、同じような境遇なんで、時々は一緒に飲みに行ったりしたんだ。ほんとうに、悩んでいるところなんか見たことがない」
「親しかった」
「そうだね、よそよそしくはなかったと思うよ」
「思う?」
「ぼくは断れない男なので、男でも女でも誘われば、ご一緒する。たまに、お酒を飲むぐらいのことは、ね、大したロスでもないし」
「ロスではない? 望んでいるわけではないんですね」
「あ……」
 なるほど、さっそく自分に直面した。
 職場の後輩で男っぽいけど美人だった。でも、ぼくは望んではいなかった。
 たぶん、ぼくはだれとの関係も望んでいる訳じゃない。それが「尊敬」の数に現れるのかもしれない。目の前の女性のフォロワーは二百万人。それだけの人が彼女の発する言葉に耳を傾けている。芸能人でもなかなか出ない数値だ。ぼくのフォロワーはゼロ。というかなにも情報を発信していない。
 ぼくは誰にも聞いて貰わなくていいと思っている。謙虚に? いや傲慢に?。
「それが罪悪感の原因だって?」
「いいえ、わたしはそんなことは。頭がいいんですね。わたしが何をしようとしているか理解しているみたい」
「内省、自己観察、過去との直面、現実認識、再構築」
「やりづらい人です。いつもあなたは抵抗している。わたしを敵だと決めて、心を隠している。惣領かえでさんにもそうだったんですか?」
「……かもね。ぼくがいけなかったのかな。心を開けばよかった? ぼくはこんなに傷ついているんです。大事にしてください。優しくしてください。できればSEXもしてください。そうすればぼくも他人に優しくできるかもしれません。このほうがよかった?」
 西宮はるかは微笑んだままで、ぼくの挑発には取り合わなかった。
「恋愛感情はあったのですか?」
「発見された死体の様子、聞いてます?」
「ええ、事情聴取の時に、少し」
「じゃあ、分かるよね。恋人だったら後を追って死んでる。ほんの一パーセントでも責任を感じたら……恋愛感情はないよ。ありません」
「理解しました」
 そう答えた西宮はるかは、目をふせて微笑んだ。職業的な笑みだ。敵意はありません、ちゃんと聞いていますよという意味の笑み。
「先生も傷ついているんですか?」
「わたしは訓練されています。そういうことは切り離せるんです。でないと死んでいますよ、わたしも」
「プロなんだ?」
「プロですよ。眼鏡、白衣、落ち着いた笑み、これはわたしの擬態です。クライエントがわたしに要求するイメージなんです。性的なジョークも言わない。清潔でしょ。でも、あたしけっこうお風呂入らないんだけどな。面倒なことはきらいなんです」
 西宮はるかは、肘掛椅子から立ち上がった。
「木山彩斗さん。あなたはわたしを信用していない。きょうはここまでですよ。友達になるところから始めましょう……このセリフ言うの何回目でしたっけ?」
 西宮はるかは子供の頃、異常者に母親を殺されカウンセラーを目指すようになった。男性関係はこれまで三人。どれも自然消滅的に関係を解消している。クライエントには絶対の信頼があって、彼女はクライエントに報酬以上の献身を捧げている。それが彼女の魂がする事なのか、彼女の功名心がすることなのか、表面的なデータからは判定できない。
 心療カウンセラーとしての彼女は優秀だ。彼女の仕事の場合は、優秀であってもなにも起こらない。自殺したはずの人物が自殺しなくても、成果としてカウントするのは難しい。フォロワーの数が優秀さを語っているのかもしれない。だが、それも成果との因果関係はわからない。
 優秀さを買われて、三年前、科学警察研究所での研究に協力していた事もある。犯罪行動科学部、犯罪予防研究室での成果。潜在犯、被害者の心的ストレスケアに関する研究。
 自分の犯罪性向に悩む、未犯者や犯罪被害者が、谷間におちてしまわないよう心のケアをする研究だ。問題点、方法論を体系的にまとめた成果が、警察庁のホームページで見られるカウンセリング人工知能。通称、こだまちゃん。女性型の疑似人格が、ダークサイドに落ちてしまいそうな迷える子羊を導いてくれる。実効性は疑わしいが、西宮はるかが生んだ成果物であるのはまちがいない。
「いつでも、連絡をくれてかまいません」
 ぼくの視界に、メール、アドレスと携帯端末の番号が映し出された。赤外線をつかった応答だ。西宮はるかは、なんど連絡先を渡しても、ぼくがそれを保存していないことを分かっているのだ。
「どんなことでも構いません。ささいなことでも、あなたがつまらないと思うことでも」
「ありがとう」
 と答えながら、ぼくは番号を記録した。捜査対象のIDは重要だから。
 西宮はるかは優秀だった、と言い換えなくてはならないかも知れない。
 彼女の顧客は多い。中には手をつくしても自殺したり、他人を攻撃しててしまったりする顧客も生じる。統計的には仕方のない出来事だ。
 だが、彼女の顧客の死亡率は、一般平均の百倍。自然界におこる現象の平均偏差としては、ありえない領域に入っている。
「先生。たとえばの話だけど、誰かにストレスを与えて自殺に追い込む、そんなこと簡単に出来るのかな?」
「たとえばわたしが、惣領かえでさんを自殺に追い込むことが出来たか、ということですか?」
 そうです。そういう事です。
「可能ですよ。たとえば心の深層で死を望んでいる人がいて、その背中を押すのは簡単なことです。でも、もしそんなことをしたら、それは自殺教唆といって、ちゃんとした犯罪なんですよ」
 西宮はるかは笑った。笑うとえくぼがチャーミングだ。
「わたし、疑われているんですね。仕方ないけれど。わたし、何人死なせちゃいました?」
 この四年の間に自殺した彼女のクライエントは、二百六十八人。
 西宮はるかは、大量殺害に関する、容疑者だった。


 それはほんの一週間ほど前の出来事だ。
 それを思うと、まだ夢を見ているような感じを、拭い去ることができない。
 じつは惣領かえではまだ生きていて、少年のように白い歯を見せて笑う。
――びっくりした?
 びっくりしたよ。趣味が悪いことをするね。ひどく傷ついた。もう少しで楽になりたいと考えるところだった。
――楽になってもいいんだよ。
 うん、それもいい考えだけど。でも、それはきみのことに決着をつけてからだ。だって、きみが死ぬ理由なんてなかったじゃないか。
――先輩がそう思っていただけじゃない? じつはあたしはひどく悩んでいて、じつは先輩のことを憎んでいたりして。
 ほっとするね。じつはぼくもきみが嫌いだった。
――うそ、あたしのこと、やらしい顔で見てたよ。
 嫌いでも、やらしい顔はできるんだ。男ってそういうものなんだよ。
――ひどい。あたし、やっぱり死んでよかった。最低、人殺し。
 想像の中の惣領かえでは、笑って、ぼくの胸を叩いた。
 惣領かえでが誘ってくれたのは、おっさんが仕事帰りに立ち寄るような居酒屋だった。電子化されていない昔ながらの店。メニューが副現実に浮かんだりしないし、現在調理中の料理がどのテーブルのものかを現すキューが出たりしない。ちょっと時代遅れの、油と煙草で汚れた居酒屋。
 注文は、自分の声帯と横隔膜で行う。こんな当たり前の光景を、いまはあまり見かけない。
「生ビール追加! 盛り合わせ早くね!」
 先に仕事を終えていた惣領かえでは、すでにもう何杯か飲んでいる。神経代替手術を受けている人は、身体感覚機能への負荷を怖れてあまりアルコールは飲まないんだけど、惣領かえでは規格外だ。
「元気だね。この仕事で君みたいに明るい奴見たことないよ」
「先輩の暗さも尋常じゃないよ」
「これは生まれつきだから。美人と一緒なんだから、楽しくないわけないだろ」
「うわ、テクニカルな憎まれ口だ。どこにつっこんでいいかわからない」
 どうして、彼女がぼくを誘うのかわからなかった。部屋に来いとも言わないし、うるんだ目でぼくを見つめたりもしなかった。大笑いして二日酔いになる。たくさん食べて、おなかを壊す。惣領かえでは生命力にあふれていた。
「ストレス解消なら、友達と一緒のほうがいいんじゃない?」
「あたし、友達いないし。先輩と同じ。だれも見てくれなくていい。むしろ一人がいい。だれも余計なこと言わなくていい」
「じゃあ、どうして誘うのさ?」
「同じだからでしょ? そんなことも分からないの? かんぱーい」
 惣領かえでは割れそうな勢いでグラスをぶつけてくる。三分の一くらいは、ぼくの膝の上にこぼれた。
 正直、なんの話をしたのかはあまり覚えていない。
 上司やエンジニアの悪口とか、最新医療技術の話とか。ぼくらはその境遇から先進医療技術フェチに育っている。
 オペレーターであるからには、惣領かえでも体になにか重篤な障害を抱えていたはずだ。
 ぼくは酔った目で、惣領かえでを眺めた。
 きりっとした眉と、耳も隠れないほどの短い髪が少年のようだけれど、肩はとても華奢で、腕もモデルのように細い。これは神経代替手術を受けた人間の特徴だ。つくりものの神経系はがんばっても、健常者のように体をコントロールすることはできない。だから、鍛えて一定以上の筋力を維持していても、どうしてもやせほそった感じになる。ぼくも同じだ。彼女のTシャツの胸元、鎖骨の下には血管の透けそうな、青白い皮膚と、控えめなふくらみがある。
 ぼくの視線に気づいた惣領かえでは、顔を赤くして、胸元を押さえた。
「ちょ、ちょっと、突然オスの顔になるのやめてくれる? もう誘わないよ?」
「そんな顔してた?」
「ちょっと息が荒かった」
「うそつけ。見てただけだ」
「なにを見てたのよ」
「そうだな、たぶん……優しい家庭に育ったんだろうな、と思って」
 惣領かえではちょっと顔を強張らせた。無理に笑顔を作るような感じがあった。
「幸せに見える?」
「なんか、まずいこと言った?」
「いや、うれしいなと思って。あたしが幸せに見えるのならそれは嬉しいよ。がんばって良かったと思う。あたしは、ぼっちだけど世界が好きだし、できれば世界の力になりたいと思ってる。この仕事も、そんなに嫌いじゃない。不幸せでいたいならそうすればいいけど、あたしは不幸を望んだりしないよ」
 惣領かえでは、キャベツとから揚げを、ぼくの小皿に盛りあげた。
「もっと食べなきゃ。そんなやせっぽりじゃ、生き残っていけないよ」
 という惣領かえでは、ぼくと目を合わさなかった。慌ただしく箸を動かす様子は、なんだか怒っているように見えた。

      続く

【戻る】HOME【次へ】

Copyright (C) ずかみんの幻想工房. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system