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【APOPTOSIS】(6/12)R15注意

シンデレラの姉達は、王妃になる為に―

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 シンデレラの姉達は、王妃になる為につま先やかかとを切落とした。これはシンデレラの物語にも似た、ほの暗い童話だ。

 ある所にとても気高く美しい母親がいた。その母親には、三人の子供と、二人の夫がいた。
 子供達は、姉と弟と妹。妹は幼い日の惣領かえでだ。
 母親はとても誇り高く、また嫉妬深かったので、夫や子供たちが、自分以外の誰かを愛することを、許さなかった。
 だから母親は、二人の夫に命じて、子供達を、何度も虐待させた。
 夫同士もまた、甘い言葉で惑わして争わせた。母親はとても魅力的だったので、子どもや夫を従わせ、操るのは簡単な事だった。せまい世界の中で、母親は絶対の暴君で、信仰の対象で、また家族の心の拠り所でもあった。

 最初の事件を起こしたのは、いちばん年上の姉だった。学校に行っていた姉は、自分の家族達が異常である事に、気づいていた。
 姉は家から逃げ出そうとして、失敗した。
 母親は二人の夫に命じて、姉に罰を与えた。
 悲鳴と泣き声は三日の間続き、子ども達はその間、ずっと耳をふさいで過ごした。
 いちばんの最初は、なにかの手違いだったのかもしれない。誰も、誰かを殺すつもりなんかなかったのかもしれない。
 けれど、泣き声はぱたりとやんで、母親は不都合な結果に顔をしかめた。
 死体の後始末をしたのは子供達だった。子供達は、ナイフと鋸の使い方を学んだ。

 その事件をきっかけにして、家族はお互いを疑うようになった。夫たちは、最初に警察へ行き、先に罪を打ち明けた者の方が、罪が軽くなると思っていた。子供達は、どちらかが逃げだせば、残された方が、母親の罰を受けると、思っていた。
 疑心暗鬼の中で、二人の夫達は、争いを始めた。もちろん、力が強い者が勝利を収めた。
 勝利した夫が、かえでの実の父親だったことは、幸運だったのか、不幸だったのかわからない。
 死体の後始末をしたのは、また、子供達だった。
 大人の体は大きく重く、子供達はとても苦労をした。

 その時でも、まだ、子供達は母親を信じていた。

 ある日、弟の頭がおかしくなった。突然、わけもなく悲鳴を上げたり、笑い出したりするようになった。それは、何度も電気ショックや、首を絞めての罰を受けたせいかもしれない。
 扱いに困って、母親は残った夫に弟の始末をさせた。
 最後に残されたかえでが、弟の死体を片づける事になった。

 残されたかえでは、生き残るために頭を使い、出来る限りの事をした。母親以外の家族は、もう、父親しかいなかった。もし、かえでの命を奪う人間がいるとしたら、それは父親以外に考えられない。

 かえでは、もう、母親も父親も信じてはいなかった。

 時には、大人の女性がするのと同じようにして、かえでは父親を愉しませた。
 母親よりかえでの方が、若く、まともで、より美しい。
 かえでは、もし誰かが死ななければいけないとしたら、それは自分ではなく母親の方だと考えていた。
 母親の目を盗んで、何度も、何度も、父親を悦ばせた。
 かえでは、父親を手中にした。

 ある日、全てが明るみにさらされて、母親は激怒した。愛されるのは、必要とされるのは、母親一人だけだ。他の者が注目を集めるのは許されない。それは裏切りであり、侮辱だった。
 かえでが父親と関係を持ったのは、反逆だ。
 子供なんかに、満足させてあげられる筈がない。おまえは騙されているのだ。
 母親は、そう父親に宣言して、かえでの命を奪うように命じた。
 けれど、命を奪われたのは母親の方だった。
 かえでは、自分の力で、運命を勝ち取った。

 もう、父親は必要なかった。何度も死体の後始末をしたおかげで、ナイフの扱いは、父親よりも上手だった。
 かえでは、眠っている父親のおなかを、丁寧に切り裂いた。
 姉のかたきで、弟のかたきだ。もてあそばれたしかえしでもあるし、ひとつだけ、かえでがして上げることのできる恩返しでもあった。
 殺せば、なにもかも忘れさせてあげることができる。
 父親は、すぐには死ななかった。
 かえでの手からキッチンナイフを奪い、うつぶせにしたかえでを、なんども刺した。
 背中の骨の間に滑り込んだ刃先が、かえでの大事な神経を傷つけた。
 下半身の感覚がなくなったけれど、もう、それは大事なことではなかった。
 ナイフは欠けて、歪み、つかいものにならなくなった。
 父親は馬乗りになり、太い両腕で、かえでの首を絞めようとした。
 かえでは、それでいいと思っていた。起こったことはみんな悪い夢で、この悪い世界で命を落とせば、普通のまともな世界で目を覚ます事が出来るのだと、かえでは考えていた。
 かえでは、目を閉じて、締めやすいように、細い首を持ち上げた。
 けれど父親は、かえでが目を覚ます途中で、力尽きてしまった。
 悪夢から覚めないまま、かえでは薄闇の世界をさまよっている。
 これは、そういう終りのない寓話だ。
 ぼくが知らなかった、むかしむかしの物語だ。

      続く

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