目を覚ますと、顔が涙で濡れていた。すこしだけど頭の芯に痛みが残っている。
この悪夢を見始めてから、もうずいぶんになる。
電気は消されていたけれど、エアコンはタイマー運転になっていた。ゆなねぇの姿はなくて、布団はひとの形のくぼみがあるだけで、もぬけの空だった。
「ゆなねぇ? どこなの?」
返事はなくて、ぼくは立ち上がった。どうせ、すぐには眠れそうになかった。
部屋をでると、屋敷の周囲を囲む廊下に出た。掃きだし窓の外に蛇がいてぎょっとしたけれど、それは軒下に吊るされたマムシの干物だった。
そっと、ゆなねぇの部屋をのぞいたけれど、そこには布団もしかれていなくて、戻った気配もなかった。
思い出して部屋にもどり、ビーチサンダルで窓から外に出た。
座敷牢の納屋に、灯りがついていた。
黄金色の和便器がある外トイレの横を抜けて、ぼくは納屋の方へ歩いた。敷地の脇には草に覆われた自然石の墓があった。この屋敷は気味が悪いものだらけだ。
足元には砂利がしかれているので、音を立てないように歩くのは苦労した。雲が降りてきていて星は見えなかった。
座敷牢のエアコンが動いていた。
勝手口のほうへ回り、様子を窺うとそこは灯りがついていなくて、人の気配はないようだった。ここなら誰にも見つからずに中へ入れるかもしれない。
ドアノブをまわすと、鍵はかかっていなかった。
「おいたをする時は、まわりを確認しなさいって言わなかった?」
心臓が止まるかと思った。ぼくはマンガみたいに飛び上がったに違いない。
振り返ると、パジャマ姿の琴音おばさんが、腕組みをして立っていた。
「お母さんにこの納屋には近付くなって言われたでしょ。きかなかったの?」
「きいてます。でも意味がわからない」
「意味は、ちゃんとあるのよ。教えてあげましょうか? 優奈ちゃんをさがしてるのね」
そういう琴音おばさんは、紛れもない女の顔をしていて、しかもひどく残酷な感じに、歪んだ笑みを浮かべていた。子供が誰かをいじめる時の顔だった。
「……」
「こっちよ」
先に歩き始めた琴音おばさんを、ぼくは分けがわからないまま追った。
琴音おばさんは、懐中電灯の灯りで、納屋の車庫の方に歩いた。車庫には乗用車と軽トラックが止められていて、おばさんは慣れた感じで軽トラックの荷台に上がった。
「これ、持ってて」
琴音おばさんは、軽トラックの荷台の上で天井を持ち上げた。天井は簡単に外れて、ハシゴが降りてきた。
「灯りをわたして、照らしてあげるから、登ってきて」
先にあがったおばさんの後を追うと、そこは集めた藁をしまう倉庫だった。天井は低くて梁に頭をぶつけそうだった。屋根裏の倉庫だ。
古い家具や農機具などのいらないものが、奥の方へしまってあった。
住居になっているあたりから、屋根裏に灯りが漏れていた。床から何条かの光が伸びて、小屋裏に映っていた。
琴音おばさんは指を立てて、静かにしているように指示をした。
おばさんは奥へ進んで、床板のすき間を少しだけ増やした。この板はわざとゆるませてあるのだ。
下を見てみろと、琴音おばさんは身振りで示した。
男の人の話し声がした。
男の人たちは白装束だった。壁際の台には捧げものみたいな野菜や海産物があって、お酒と一緒になにかの法則性を持って並べられている。
祖父だけではなく、村の男の人が五人ほど集まっていた。若い男はいなくて、みんな日焼けした農夫のおじさんという感じだった。
「月のめぐりがいい。巫女はもう憑き始めている」
「ふん、若い男が村にいるからかもしれんぞ」
「あれは子供だ」
「子供でも男だ。もし、そうならけしからん話だが、ま。儀式の邪魔にはなるまい」
男たちは冷静に会話していたけれど、声は暴力的なものをはらんで、湿っていた。
ぼくは、琴音おばさんを振り返った。
「いいから、もっとよく見なさい」
琴音おばさんは容赦なく言った。
座敷牢、という名前にふさわしく、八畳ほどのその部屋には、黒光りのする大きな格子で片面を塞がれていた。障子の代わりに格子があるような感じだ。扉も格子になっていて、たぶん鍵がかかるようになっているのだろう。
男が白装束を床に落とし、白い前掛けだけの裸身になった。汗ばんで毛に覆われた肉付きのいい体は、壮平叔父さんだった。叔父さんは仁王立ちになって腰をつきだした。
白く細い手がのびて、叔父さんの前掛けの下をさぐった。
振り返ると、琴音おばさんの顔は、笑みを受けべたまま仮面のようになっていた。指がパジャマの袖を破れてしまいそうに掴んでいた。
別の男は――知らない老人だったけれど――四つん這いになった巫女の緋袴をずり下げて、貝殻につめた飴色の軟膏を指ですくい、巫女の足のつけねに塗りこめていた。指でくじるようにして、中までたっぷりと押しこんだ。
「いや……あつい……」
巫女はもじもじとお尻をふった。
ぼくの心臓はばくばくと音をたてていた。そんなはずがない、ゆなねぇは男の子みたいで、色気がなくて、勝気な女の子だった。誰であれ、誰かの前に膝をついて、従順に奉仕しているところなんて、とても想像できなかった。胸が悪くなった。
壮平叔父さんは前掛けを落とし、猛々しく反り返ったものを、巫女の前に差し出した。
巫女は四つん這いのまま顔を上げ、舌をのばして、突きつけられたそれの先端をちろちろと舐めた。
顔をあげた巫女は、ゆなねぇだった。
ゆなねぇは白い着物と襦袢の前をはだけた状態で、まくり上げたすそから、柔らかな桃の形をした白いお尻が見えた。緋袴は老人がかたづけてしまい、今度は別のおじさんが、ゆなねぇのお尻の間を指でいじっていた。
壮平叔父さんがなにか言うと、ゆなねぇは横にくわえるようにして、先から根元までを舐めた。
乱暴に指でかき回されて、ゆなねぇは鼻にかかった声を出していた。
「だめ、いたくなっちゃう……あ」
じゅぷじゅぷと湿った音がしていた。
「ゆび、いやぁあ……」
「じゃあ、どうして欲しいの? 言ってごらん」
壮平叔父さんは、ゆなねぇの口からそれを乱暴に抜いた。一瞬、ピンクの舌先が、からめとるようそれを追いかけた。
「ほら、どうして欲しいんだ」
といいながら、知らないおじさんは大きくなったそれを、ゆなねぇのお尻をなぞるように動かした。ゆなねぇは痛みに耐えるような顔で、肘をついてお尻を突き上げたまま動かなかった。
長い間、動かずにいた。太ももや肩が痛みに耐えるように震えていた。
くちゅくちゅと音をたててなぞっていると、唇を噛んでいたゆなねぇは、あきらめたように泣き顔になった。お尻を突き出して、知らない叔父さんのそれを、飲み込んだ。
いちばん、見たくないものを見たような気がした。
「はぁあああ!」
「あれ、ヤラシイ子だね。自分で入れちゃったの」
「……ごめんなさい」
ゆなねぇは消えてしまいそうなかすれ声で言った。
「やらしいあそこをいっぱい突いてくださいって言わないと」
ゆなねぇは少しだけ泣いた。しばらくして一度だけ鼻をすすると、消えぎえの声で、言われたことを繰り返した。
「わたしの……やらしいあそこを……いっぱい、突いて……ください」
知らないおじさんは、ゆなねぇの小さなお尻に腰を叩きつけた。
「ああぁ!」
「気持ちいいんだね」
「なるくんが起きるといけないから静かにしようなぁ」
壮平おじさんは、ゆなねぇの口に小さくなりかけたそれを押し込んだ。知らないおじさんはそれを見届けてから、また、ゆなねぇのお尻を強く引きつけた。
「んーっ!」
ゆなねぇは声にならない悲鳴をあげて背中を丸めた。プルプルとお尻の肉が震えて、まだ青い畳ををじゃぶじゃぶと液体が濡らした。ゆなねぇはおしっこをもらしたみたいだった。
おじさんたちは、満足そうに頷いた。
ゆなねぇのからだのまわりにおじさん達が群がった。
胸をつねったり、お尻を撫で回したりしていた。誰かが電気マッサージ器のコンセントをつないでいた。
ブーンとモーターの音がして、長い悲鳴が納屋に響き渡った。
耳をふさぎたかった。
「優奈ちゃんは、とてもいい子だから、来月も学校に行かせてあげる。みんな援助してくれるよ」
男の物をくわえたまま、ゆなねぇは、ありがとうございますと言ったみたいだった。
でもなんと言っているか実際にはわからなくて、ケモノのうなり声のように聞こえた。
「言ったでしょ、そういう子なのよ。びっくりした?」
琴音おばさんは、愉快そうに言った。
おばさんがゆなねぇを憎む理由がわかった。琴音おばさんは、ゆなねぇに叔父さんをとられたのだ。
胸のつかえはこぶし大の石を飲み込んだようで、息苦しいのと同時に、なにかを壊したいような衝動を引き起こした。
たぶん、それは殺意だった。ぼくはゆなねぇを殺して自分のものにしてしまいたいと思っていた。
続く